この間一番上の兄貴が、学校に見学に来た。

一生懸命こないよう頼んだのだが……。

「うに〜」

 

 

襲来

 

 

昼下がりの正午、企画の授業も終わり、母親が作ったお弁当を食べようとした。

誰もいない教室、静かだった。だがその静寂もたった一つの曲により、かき消された。

曲名は「男はつらいよ」。

発信源は僕の携帯。

この携帯は、普段使うことも使われることもほとんどないものだ。

当然のことながら、基本料金をこえたことはない。

その携帯がなったため、面倒くさいがでた。

「もしもし」

「あー、哲也か」

「う、うん」

聞きいなれた声。

「今、東急デパートの近くにいるんだが、こっからどうやって行けばいいんだ」

「……」

兄貴の声だ。とうとう来てしまった。

何故かはわからないが、兄貴は昔から学校に見学に来たがっていた。

そのつど僕は勉強している姿を見られたくないので、必死で断り続けていた。

だが、それもあの日まで。

そう、数日前に

「授業で使いたいからCDを貸してくれ」

と頼んだあの日までだった。

 

あの日、卓先生の授業で、兄貴の持っているCDがどうしても必要だった。

そのため兄貴に久しぶりに電話をした。

「兄貴、アニメ○ルマラ×ン貸してくれない」

「別にいいけど……あ、そうだ」

なにを思ったか、兄貴が変な提案をしてきた。

「学校に届けてやるよ」

「えッ……」

ドキッとした。

兄貴に変な口実を与えてしまった。

当然のことながら、僕は必死で断った。

「い、家で結構です」

気づいたときには電話越しに土下座までしていた。

だが兄貴には勝てず

「学校に届けてやる」

と、いうことで電話は切れた。

「……」

 

このようなやり取りがありながらも、なにげに僕は冗談だろうと思っていた。

いくら来たいからと言っても、まさか学校に来るとは思わなかったからだ。

それにあれだけ断ったんだし……。

だが僕の考えは甘かった。

冗談ではなかったのだ。

実際兄貴が来てしまった。

どうしましょ。

とはいえ、放置しておくわけにも行かず

弁当の蓋を閉じ、兄貴を迎えにいった。

気分はとても複雑だった。

「まいったなー、どうしよう」

などと思っていると、食事を買いに行っていた上田先生と遭遇した。

「どうしたの」

「兄貴が学校見学に来てしまったらしくて……」

「いいじゃない、つれてきなさいよ」

上田先生大歓迎って感じです。

心の中で深くため息をつくと、大正通りを走った。

兄貴を発見するのはそう難しいものではなかった。

というか、即行見つかった。

「本当に来たの」

「ああ、言ったろ」

「……」

確かにそうだけどと思ったが、やはり家族が授業を見に来ることに抵抗があった。

まして、家では見せない顔などを見られるのが恥ずかしかった。

だが来てしまった以上は腹をくくるしかない。

上田学園にとりあえず案内した。

この時学校には、チーさんと上田先生だけだった。

とりあえず兄を紹介した。

この時先生が、大抵の人が我らが兄弟をみて発する定番の言葉を言った。

「本当に似てないわね」

そう、うちの家族はなぜか、血がつながっていないのではと思うぐらい似ていない。

ばらばらの顔。

ばらばらの体格。

ばらばらの性格。

どこをどうしたらこんなに差が出るのかがわからない。

似ているところと言えば

アニメオタクということと、背が低いことくらいだ。

ホント変な家族だ。

先生に紹介してしばらくすると、みんなが食事から帰ってきた。

「こちらヒロポンのお兄さん」

先生が紹介するとみんなあいさつした。

そのとき

「少し似てるね」

と誰か忘れたが言って、少し驚いた。

それから兄貴は先生と話をしだした。

何を話していたのかはわからないが、ちょっと気になった。

いや、メチャクチャ気になった。

そのため弁当を食べながら聞き耳を立てていた。

そんな状況下でナルチェリンが変なことを兄貴に聞いた。

「ヒロポンが昔、外に連れ出されそうになったとき、柱にしがみついて抵抗したって本当ですか」

……ハァ。

思わずため息をついた。

当然兄貴は真実を答えた。

「ああ、そうだよ」

まぁ、この事件のことは結構学校で話したりしていたのでいいのだが……胃がきしむ。

みんな余計なこと聞かんといてー。

兄貴も余計なこと言わんといてー。

内心ドキドキものだ。

そこに麻生先生が出現。

麻生先生の授業開始。

内容は、麻生先生がナレーションした台本を見て、それをみんなでするというものだ。

だがもともと僕は、恥ずかしがり屋のうえあがり症だった。

人前で何かをするのがすごく苦手だ。

そのうえ兄貴までいるなんて……。

(恥ずかしいからかえってくれ〜)

心の中で叫んだ。

さらに授業中の自分を見られるなど、恥ずかしいのきわみだ。

特に家族には……。

そんな思いが届いたのか、兄貴が荷物を持って出て行った。

(フゥ……)

安堵した。

それからナレーションの仕方の参考にと、麻生先生がナレーションをしているビデオを見た。

何とかと言う競走馬の引退後のビデオだった。

ビデオの中では年老いた馬と、それを世話する牧場の老夫婦が映っていた。

流れる麻生先生のナレーション。

だが、次第に眠くなってきた。

ナルチェリンなど、タイツアーで疲れ果てているのか、落ちていた。

眠っているナルチェリンを起こしながら、ビデオを見ていると、再び悪夢が帰ってきた。

兄貴だ。

どうやら帰ったのではなく、飯を食いに行っていただけだったようだ。

「……」

麻生先生の授業を見られるのはまだいいのだが、この後の授業を見られると思うと頭が痛くなる。

上田学園がラスボス(僕の中で)の見上先生の授業だ。

頭がガクッと落ちる。

(兄貴、帰ってくれ)

と思いながらも、無情にも帰らず、兄貴が見ているなか見上先生の授業が始まった。

ハァ〜。

しかも授業内容はナアンドーブちゃんだ。

「……」

内容を聞いていると頭が痛くなってくる。

(エロイ)

なぜに兄貴がいる中こんなエロイ内容を……絶望が頭の中をよぎる。

一通り、フランス語での書き方と読み方と約が終わると

「さぁ、みんなパソコンで書いてみよう」

と見上先生が言い放った。

頭イタ。

なぜこんなエロイ内容を……。

イヤだった、はっきりいって。

だがやるしかない。

そう決意させたのは、学校の中を飛び交う会話だった。

そしてチーさんの

「官能小説を書きました」

という言葉だ。

その言葉を聞いたとき、みんな凄いことを書いていると思い、書き始めた。

ただ書くだけでは面白くなかったため見上先生にちょっと質問してみた。

「ナレーションとか入れてもいいですか」

「ああ、どんどん入れてくれ」

ということで、メチャクチャな表現などを使って書いてみた。

(どうせみんな凄いこと書いてるんだろうし)

と思いながら。

どことなく安心感があったのだ。

だが、それは勝手な思い込みであった。

書き終わったあと、一部の人に見せたら、お前のが一番エロイと言われた。

(……うぞ)

ガクッと来た。

だが書き直すのもメンドイので、そのまま見上先生に送った。

そして授業は終わった。

……疲れた。

ただですら疲れるのに兄貴がいたから緊張して、余計に疲れた。

でも、少しうれしかったかも……。

 

 

兄上へ

いろいろお世話になりました。心配もたっぷりかけました。

でも今のところ大丈夫なんで、安心してください。

また、この先迷惑をかけるかもしれませんが、そのときはよろしくお願します。

それではお忙しいなか、兄上殿、ありがとうございました。

 

 

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