2008年3月19日(水)

 

ノーカントリー

 

今年のアカデミー作品賞を含む4賞を受賞した映画『ノーカントリー』。興味があったので、公開2日目の先週日曜日に、早速見に行ってきました。アカデミー賞受賞したこともあって、映画館は人で一杯でした。

この作品の脚本・監督であるコーエン兄弟は、一癖あるサスペンスを作る映画監督という印象があります(もっとも『ビッグ・リボウスキ』くらいしか見たことはないのですが。)本作はアメリカでの評判は高かったようですが、日本のヤフーの評価を見ると割れていたりもして、見る前は、「どうなんだろうな〜?」という気持ちでした。

この映画の時代設定は1980年、舞台はアメリカ・テキサス州、そして主な登場人物が3人出てきます。理解できない犯罪など、昔と比べて変わってしまった現在を嘆く、年配のベル保安官(トミー・リー・ジョーンズ)、狩りをしている所に麻薬がらみの死体現場をみつけ、そこにあった巨額の金を持ち出してしまうベトナム帰還兵のルウェリン・モス(ジョシュ・ブローリン)、自分の規範が何より大事で、金を持ち出したルウェリンを追うことになる殺し屋のシガー(ハビエル・バルデム)です。ルウェリンは、金を手にした時は無事に家に戻りますが、死体現場にただ一人生き残っていた男に水をあげるために戻ったせいで見つかり追われることなります。前半から中盤は、逃げるルウェリンと追うシガーの対決が話の中心です。張り詰めた緊張感が続くその攻防は意外な形で幕を閉じ、後半はベル保安官とその他の登場人物との会話が挟まれ、彼の口からこの映画のメッセージのようなものが語られます。

追う者と追われる者の追いかけっこという展開は、サスペンスのストーリー的にはありがちなものですが、シガーの感情を排した殺し方やその超然とした雰囲気、またベル保安官の哲学的なセリフ、そして映画の中の静かで(音楽がほとんどない)緊迫とした雰囲気が、この映画を神話的なものにさせています。今どきこれほど静まり返った映画も珍しいくらいです。

この映画で一番強烈なキャラクターは、やはり殺し屋のシガーでしょう。ヘンテコなマッシュルームカット、牛を殺すためのエアガンを武器にするという奇妙ないでたちで、コイントスによって運命を決め静かに人を殺していく彼は、人間味というものからはほど遠い存在で、まるで生ける死神といった感じです。この映画における、理解を超えたものの象徴的なキャラクターです。しかし、少し欲を出したり情けを出したりしただけで運命が変わってしまうルウェリンや、良心を持っているがゆえに、現状に苦悩するベル保安官もなかなか味のあるキャラクターで、主要な登場人物は役割分担が出来てて面白かったです。

映画の神話的な側面を考えると、あんまり一般の人向けの映画ではないと思います。(もともとコーエン兄弟の映画は大衆向けではないのですが。)これは観客に考えさせるタイプの映画であり、エンターテインメントではないということです。それでも、重く緊迫した展開の中に、何気ない会話で笑わせる所があったり、内容をシニカルに捉えている点は興味深かったです。サスペンスの中にユーモアを交えるのも、きっとこの人たちのスタイルなのでしょうけれど。

正直最後の展開はスッキリするものではなく、映画が終わってからも少し「どういう意味なんだろう?」と考えてしまいました。そういう映画なので、ぜひお間違えのないように。テーマでピンと来る方には、面白い映画ではないかと思います。

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