私の好きな映画監督、ウェス・アンダーソンの新作です。私は去年の夏にアメリカ版の予告編が公開されて以来、首を長〜くして待っていました。そうしているうちに、去年の10月に東京国際映画祭で上映されるのを知り、すぐさま見に行きました。ウェス・アンダーソン監督の作品らしい独特さは、いつもどおりでした。
この映画のメインキャラクターは、疎遠になっていたところに長男の号令のもとでインドを旅することになった3兄弟、長男フランシス(オーウェン・ウィルソン)、次男ピーター(エイドリアン・ブロディ)、三男ジャック(ジェイソン・シュワルツマン)です。彼らが共に電車でインドを旅するのですが、彼らの関係は微妙にぎくしゃくしています。それぞれがどこか欠けているところがあって、いがみ合って事件を起こしたりといういくつかのエピソードが挟まれていきます。でも不思議なのは、彼ら3兄弟がどこか憎めない感じがするところ。インドという異世界でのギクシャクした関係も、なかなか妙味があります。舞台はインドに変わりましたが、「コメディタッチで家族の話を描く」というこの人の作品の基本は、いつもどおりです。
物語の展開もこれまた、いつものとおりスローテンポで、脈絡のない感じです。ゆる〜い展開のなかで、少しシニカルに笑えるところがあったりします。その上今回は、車両などの細部のデザインまで作りこむウェス・アンダーソン監督のこだわりが、インドの色彩感覚と見事に融合していて、実に不可思議で美しい映像世界が作り出されています。そして後半のある事件を境に映画の中に流れてくる静謐な雰囲気は、今までのこの人の作品では味わうことのできなかったものであり、意外かつ少し不思議な感じがしました。
あと特徴的なのは音楽です。この監督はいつもは同じ作曲家のサウンドトラックや、60年代のブリティッシュ・ロックを劇中で使っているのですが、今回は舞台もあってインド音楽が中心です。そこまでこだわっているから異国情緒はたっぷりです。個人的にはこの人の作品には、こだわりとはどういうものかを教えられているような気がします。
また、 映画の最初にプロローグ的な短編作品が同時上映されます。こちらの舞台はパリ。これもたわいもない話ですが、すでに本編の小ネタはあちこちにちりばめられています。
これで初めてこの監督の作品を見ることになる人は、「一風変わったロードムービー」とでも思うのでしょうか。実際、私は初めてみる友達と見に行くことになっており、少し興味を覚えます。
少し散文的になってしまって、好きなくせにあまり魅力を伝えられていない気がします。コメディやシリアスさ、美術、音楽、物語のテンポ...などのもろもろの具合が、いろいろな個性を保ちつつよくブレンドされている、おいしいコーヒーのようなもの...というのが、この作品の魅力のような気がします。
3月8日(土)から公開です。興味を持たれた方は、予告編を見てから(←重要)、劇場へどうぞ。