今週火曜日に、2ヶ月ぶりに映画を見に行った。それがこの『ダークナイト』。アメリカの有名なスーパーヒーロー、バットマンが主人公の映画である。バットマンの映画を劇場で見たのは、シュワちゃんの復帰作だった『バットマン・Mrフリーズの逆襲』以来である。その映画は、シュワちゃんがやけに氷っぽい質感で、別人のように見えたのを覚えている。
映画を見続けて選ぶ作品も内容重視になり、ヒーローアクションにはとんとご無沙汰になった私がこの『ダークナイト』を知ったのは、今年1月、ジョーカー役のヒース・レジャーが死亡した記事をインターネットで見つけた時だった。自分に年齢の近い人気俳優が死んだことは結構ショックだった。が、その時からこの映画は、“ヒース・レジャーの遺作”という肩書きが加わり、注目されることになった。
この作品は、2005年に公開された『バットマン・ビギンズ』の続編である。事実、主演のクリスチャン・ベールや監督など、主要なキャスト・スタッフは前作とほぼ同じ。というわけで、先に『ビギンズ』をDVDで見ておいた。そこまでやるか、と思うほど、ヒーロー映画をシリアスに作っているのが印象的だった。それと、マイケル・ケイン、モーガン・フリーマン、ゲイリー・オールドマン、リーアム・ニーソンなど渋いけれどいい役者さんが脇役にそろっていたのも印象に残った。
さらに、7月にこの映画が全米公開されると、爆発的な興行記録を叩き出していることも、インターネットで目にした。予告編もシリアスで面白そうな感じを引き立てるものだった。というわけで、私はこの映画を見ようと思っていた。
バットマン=ヒーローものと思えば、誰もが正義の味方=バットマンが悪い奴=ジョーカーをやっつける、というパターンを連想するだろう。が、この映画は全然そういう風にはならない。むしろジョーカーという悪人をメインに据えたサスペンスのような趣があった。キレた犯罪者、ジョーカーは凄まじいの一言で、彼がナイフを持っているときの緊張感はたまらなかった。狂気をちらつかせながら人々を翻弄し、意外と説得力のあるセリフを吐く。この映画では、特異な悪役を作り上げることに成功したと言っていいだろう。
ジョーカーは楽しみながら、人々をもてあそびながら、奇想天外な形で犯罪を重ねていく。バットマンはジョーカーが手に負えず苦悩する。…どう考えたってヒーロー映画の展開ではない。
テンポがよく流れていくストーリーの中で、ジョーカーに対抗する者たちはみな翻弄され、信じられる味方も少なく、バットマンはジョーカーに向かって怒りをあらわにする。さしずめ中盤あたりからは、パニック映画のような様相も呈してくる。
たくさんいるキャラクターも、それぞれ造形がきちんとされていて、とても見ごたえがある。途中からは緊迫感のあるシーンの連続になり、150分という長さでもあまり退屈せずに見ることができた。(もっとも、話を詰め込みすぎて、冗長に思える部分もあったけれど。)
ヒーローものだけにカップルも多かったけれど、これほど作りこまれ、人間の心理や闇をテーマにした作品であるだけに、『ダークナイト』は、正直なところデート向けでも子供向けでもない。吉祥寺でやってなかったり(私は東京国際映画祭以来の、六本木の大スクリーンで鑑賞)と上映館数が少なめなのは、2時間半という長さとともに、そんな理由もあるのだろう。日本人にはバットマンもそれほどなじみがないし。
見る前は、あまりの高評価で正直不審に思った。が、良作であることに間違いはない。とはいえ、バットマンの映画だからここまで盛り上がったのではないか、とも思う。とはいえ、ヒーローものをここまでシリアスに、ダークに、リアルに作りこんだことには感服する。もっとも、今回のバットマンのような人間こそ、現実世界における本当のヒーローなのかもしれない。